ここから一番遠い海

夢日記,昔話

パスタを茹でるみたいに

本人がいないとこで、その本人が語ってたエピソードを面白おかしく他の人に伝えたら、かなり無礼な人間の振る舞いに聴こえたみたいだった。

その子はなんも悪くないのに私の伝え方ひとつ、さじ加減一つで血の通わないかなり非道な人間として記憶に刻まれてしまった。

 

私という人間のよくないところなんだよな。自分の大げさな話ぶりのせいでその人に汚名を着せてしまったことが辛い。

 

そういう気持ちを抱えながらトマトソースを作り、パスタを茹でるための湯を沸かしている。沸騰した片手鍋の中にひとつかみふたつかみ塩を放り込む時、「今日は湯船に塩を入れよう」と決めた。

 

違う街に引っ越そうとする私に何かを感じたのか、美容師さんがその清め塩をくれたのがもう2年前だ。彼女の生まれた海のそばの街にある小さな神社が、古くからひっそり作り続けている清めの塩。

引っ越し先で、自分自身が縮んでいくような削られていくような、そんな苦しい思いをすると、すがるようにその小さな紙包に入った塩を湯船に入れて浸かった。

あんなにぎゅっと詰まっていた塩はもうふたつまみくらいしかない。

 

この塩の湯の中で、私も、パスタみたいに綺麗に茹で上がっていけばいい。

口は災いの元というけれど、そんな自分の身から出た錆を少しでも落とせたら、、と湯に浸かる。何も知らないうちに他人からひどい人だと思われてしまったあの子にこそ救いが必要なのに、なんで私はこうやって救われようとするんだろうな。

 

高校生くらいの歳の頃はこういう過ちを犯すたびにずっとずっと自分を責めた。そしてどんどん暗くなって辛くなっていった。

でも、自分で自分を罰し続けたり、そのことで落ち込んだりするのにも体力が必要で、大人になった私にはもう、そんなことする余裕がない。

 

懲罰を塩風呂での自省に変え、もうこんな失敗しないよう誓って眠るしかない。

明日の自分が今日より賢い人となりますように。