ここから一番遠い海

夢日記,昔話

ピンク色のネオンの餃子

好きな男の子に、「今日夜空いてる?飲みに行こうよ」、と淡々と送ったら「行きましょう!」と勢いよく返事が返ってきた。

信じられない。

ダメで元々、というか、きっと断られる、という確信じみた予感があって、「忙しいので無理です」と淡々と返ってくるものだと身構えていたからかなり拍子抜けした。誘っといて、来てくれることを期待していないなんてかなり失礼だけど、期待してなかっただけに頭の中がちょっと白くなる。

 

飲みに行こうよっていうその一言を送信するのがかなり怖くて、でもそんなお誘いひとつ軽やかにできない自分が嫌で、何故かセリアに向かって、セリアの店内の、インテリアコーナーの中のリメイクシートが売られてる棚の前で、メッセージを送った。

 

そう、私にとっては、100均に買い物に来たついでに送るくらいの、軽いメッセージなのだよ。だからそんなに重く受け取らなくていいのだよ。

 

彼に伝わるわけのない脳内一人相撲をしつつ送信ボタンを押したら、信じられない速さで返信が来たのが午後3時。

 

何が起きてるのかわからなくて、混乱しながら、セリアの入っているイオンのエスカレーターを降り外に出る。

 

ビールを飲みたかったの、とかなんとか適当な理由をつけて、昔からお世話になってるクラフトビールの美味い店で合流を約束したとこまではよかった。

 

雨が降る暗い中、行きつけのクラフトビール屋に来たら、店内の様子がガラッと変わっている。ピンク色のネオンでかたどられた餃子が店内の一番目立つ壁にドンと…。どうして…

 

イギリスのパブを思い起こさせるようなヴィンテージ感溢れるウッディな内装と、漆喰の壁から突き出るタップの並びがかなり好みだったのに。それら全てなりを潜めてしまった挙句、ステンレスを基調とした近未来的な質感の壁や床に、ピンク色の餃子のネオン。どうしちまったんだこの店は。料理のメニューも、散々なものになってる。

 

自分の気に入ってるお店に好きな男の子を招く、というかなりアドバンテージのある状況から抱いていた余裕が粉々に崩れる。その上、入店早々マッチングアプリの待ち合わせの片割れと勘違いされ、知らない男性と同じ卓に通される。疲れたよパトラッシュ。

 

そんな風に、悲しげにクラフトビールのメニュー表に目を通していたら、好きな男の子がやってきた。

 

ピンク色の餃子のネオンのあるお店に呼びつけたのをかなり恥ずかしく申し訳なく感じていると、いつものように笑ってくれて、2人で餃子のネオンに背を向けてビールを飲んだ。

 

好きな男の子と2人でビールを飲んだのが信じられなくて、その夜は全然寝付くことがてきなかった。