ここから一番遠い海

夢日記,昔話

香水

昔付き合ってた男がつけていた香水を買った。

それと気づかず買ってしまったので他意はない。

でもこの香水を作るイタリアの老舗は、彼に聞いて初めて知ったから、全くの偶然というとそれは嘘になる。

 

トップノートがものすごくスモーキーなので、最初に身に纏った時はウィスキーのことばかり考えた。

時間が経って香ってくる、清涼感のある香り。

 

あ、これは、彼の匂いだ。

 

彼のことを好きになり出した頃、隣を歩く彼のシャツが風にはためいてこの香りがした。

付き合うことが決まって嬉しくて胸に顔を埋めた時もこの香りがした。

いつもどきどきしていた。

 

でも、今、自分の体から立ち上る香りに何も感じない。

いい匂いだな、と思う。それだけだ。

感傷もない。寂しさや苦しさもない。高揚も興奮もない。

 

今は私がまとうこの香りに、どきどきする人は現れるんだろうか。

かつて私がそうだったように。