ここから一番遠い海

夢日記,昔話

肉筆

付き合っている人と一緒に暮らすことになり、慌ただしく家の中を整理しているとおばあちゃんが生前私に書いてくれた手紙がそっとでてくる。

トメ・ハネが、ありありとわかるような力強い筆圧のボールペン字を見ているとばあちゃんのからだがもうこの世にないと言うことが信じられなくなる。

目を閉じておばあちゃんの綺麗な白髪や小柄な感じや、不満なことを必ず私の母づてに伝えてきたことを思い出す。

肉筆という言葉の中に含まれる肉の字が急に眼前ににじり寄ってくる。

読みかけの「サピエンス全史」を思い出す。「サピエンス全史」を読んでいた時、ドイツの小さな田舎駅のホームで、座面からしんしんと冷たさが染みてくる中、ストライキの情報に一喜一憂し、じっと列車が来ることを待っていた。

サピエンスは実体のないもの(法律、お金の価値、宗教、会社)を信じる力を身に着け生き残ったとユヴァル・ノア・ハラリが言っていた。

肉筆の「肉」の字からおばあちゃんが確かにそこにいたことを信じられることや、座面から伝わってきた凍えるような冷たさを思い出してドイツという国のことを思い出せるのも私がサピエンスだからなんだろうか。