ここから一番遠い海

夢日記,昔話

今はもう無い焼き鳥屋

「安樂」は、二次会、三次会、四次会…と進んでいく夜、どうにか生き残った面々でなだれ込む不思議な焼き鳥屋だった。

20人以上の大人数、安い居酒屋チェーンからコマを始めたのに、気づけば5、6人にも満たない数にもなっている。

二次会、三次会と、ソフトドリンクでやり過ごした面々だから、みんなむしろ酔いが覚めて少し元気になってるくらいだけど、みんなまだ酔っぱらってあったまってるフリをして普段言えないことをポツリポツリ話し出したりする時間だった。

 

コロナウィルスが流行するよりも数年前に、入居してるビルが取り壊されるというのを理由に安樂は消えてしまった。腰の曲がった店主のおばあちゃんや、息子とおぼしき無口で素朴な中年の男性はどこに行ってしまったんだろう。

 

チラシを手で綺麗にちぎった雑がみが年季の入ったちゃぶ台の上に置いたあって、みんなで、畳の上前のめりになりながら、ハツだとかつくねだとか、ぼんじりだとか、好きな焼き鳥の横に正の字で本数を書き込んでいった。

 

こけし信楽焼のたぬきなんかがずらずらと並んでいて、落ち着く場所なのに、何か自分よりも歳を取った彼らの視線が感じられるようで、心地よい緊張感と鄙びた場所特有の安堵感があって、私は安楽が大好きだった。