ここから一番遠い海

夢日記,昔話

3月、地震

地震のあった次の日、張り詰めた気持ちで職場に向かったらもの一つ落ちてなくて拍子抜けした。

私の家ではテレビが落ちた。飾っていたドライフラワーが落下して花びらが粉々に砕け散った。

 

何事もなかったかのようなしんとした職場でひとり、自席に腰掛けて、努めていつも通りあろうと淡々と振る舞っていると、「貝に続く場所にて」のなかに出てくるドイツの女の子のことを思い出す。

その女の子がとっておきのジョークと自負しているのが、「地震味のアイスクリーム」をオーダーしてしまう日本人の女性、というやつなのだ。

「イチゴ」と「地震」という単語がドイツ語でとてもよく似た発音であること、日本という遠いアジアの国が地震まみれの場所であること、そういう二つの知識を併せ持たないと生まれない、ちょっと高度なジョークをその女の子は面白いでしょう、という感じで主人公にいう。主人公は何にも言えない。言わない、のか。

 

そもそも母語以外の言葉で人が話すとき、よっぽど失礼で野蛮な言い方でもないのに、その間違いを論って笑い種にするのは気に入らないが、それに輪をかけて、この物語の中の架空の少女に対して鼻持ちならない嫌悪感が湧くくらい、この間の地震は嫌な出来事だった。(作者の意図することは彼女の言動と全くかけ離れていることはわかってるし、作者に何か言うつもりはない。あくまでこの女の子に対して!)月並みな言葉でいうなら「冗談じゃないよ」だし、笑い事にしていいことと悪いことがある。

 

深夜部屋全体がひとしきり揺れ、建物の揺れに伴う周期的な轟音が去った後、津波警報が鳴った。

 

淡々と仕事をこなしていたはずなのに、昼頃急に気分が悪くなり、胸のむかつき、突発的な不安感が襲ってくる。

 

また人が死んでしまう

そればっかりがずっと頭をよぎる。

 

でかい災害の直後の、この、どこで、なにが、どれくらい損なわれたのか、誰もわからない感じ。どこかで誰かが誰も知らぬ間に冷たくなっているのではないかという嫌な予感。

昼下がりからどんどん雪が降っていき、窓から見える景色が真っ白になっていく。もう3月も中旬に差し掛かってるのに。

 

11年前も雪が降っていた。

 

一日中平気なふりをして帰宅して、恐る恐る暖かいお風呂に浸かりベッドに潜ると涙が止まらなくなった。

 

相変わらず何に泣いているのかわからない。怖かった、と、心細さに泣いているのか。誰かが死んでしまうのではないか、と、不安で泣いているのか。11年前を思い出して泣いているのか。

クマのぬいぐるみに顔を埋めて泣く。

 

アイスクリームのジョークなんかにしていいことではない。