ここから一番遠い海

夢日記,昔話

夢の話

■おばあちゃん

祖母の誕生日から二日ほど過ぎた晩、夢で久しぶりに祖母と会えた。

どこか自分の部屋に似ていて、でも自分の部屋よりもはるかに地上から高い場所にあるマンションのような一室で祖母と久しぶりに会う。

夢の中でも私は祖母が死んでしまったことをきちんとわかっていて、祖母も自分が死んでいるというのをわかった上でにこにこしていた。

祖母が座った隣に腰かけ、私はお葬式の時と同じくらい泣いていた。祖母がいなくなってしまった事実は十分受け止めているし、そのことで立ち直れないということもなく、きちんと日常生活を送っているんだが。

あなたの孫に生まれてこれてよかった、それをずっと伝えたかったとひたすら言いながら泣きじゃくっていると祖母は笑って、あなたも色々大変だったよね、と、私のことをさんざん振り回して傷つけてきた昔の恋人のことをほのめかした。

祖母にその人のことを直接話したことはなかった。ああずっとわたしのことを見ていてくれたんだなと感じた。

 

夜中に一度目が覚めたのに、夢の中のことと思えないくらいありありと激情が続いている。たぶん目から少し涙もでている。

 

■友人

10年来の付き合いになる大学時代の女友達が夢に出てくる。

高梨沙良選手が取り組んでいるスキージャンプという競技には通常テレビで報道されているようなノーマルヒルラージヒルといった種目と比べて極端にジャンプ台の高さ、滑走距離が短いスモールスキージャンプという競技があるのだとテレビが報じていている(そんなのない)のを見ていると、突然彼女が出てくる。

代り映えしない自分の仕事の状況にいやになり、一念発起してこの競技を始めたら、持ち前の運動神経の良さのおかげで非常に短い時間でこの舞台に来ることができた、といっている。

よく見たらそこは冬季オリンピックの会場だ。

緊張に包まれた雰囲気の中、彼女が公園の小高い丘程度のかわいらしいサイズを滑走し、ジャンプ台を飛ぶ。

はっと皆が息をのんだ刹那の後、彼女はぐにゃりと曲がった姿勢で着地してしまう。

私は彼女の名前を声に出してけがをしていないか心配するのだけど、彼女は無事で、きれいに着地を決められず思わしい結果を得られなかった後悔をインタビューで語っているのだった。

それでも最後に「無理だと言われてもあきらめずに挑戦してよかった」と晴れやかに言う彼女によかったなあと私もさわやかな気持ちになる。

 

■黒い犬

思い出の中の黒い犬が夢の中で会いに来てくれた。

最後に会った時とかわらずにくりくりとした黒い毛を全身にこれでもかともふもふにまとった黒い犬。

可愛くてたまらない。でも彼は力が強いし、後ろ足で立って直立したら私より大きいから、本気でじゃれつかれるとちょっと怖い。

最後に会った時、私の膝の上で可愛く寝息を立てていたのに、その日ははしゃいではしぃで私が転んでしまいそうになる。「ちょっと!」と少し声を荒げる。

 

夢から覚めて幸せな気持ちでいる間、何の気なしに「黒い犬 夢」と調べる。

どこもかしこも「黒い犬や黒い猫は凶兆である」ってくだらない記事ばかりだった。私たちそれぞれがそれぞれに愛する黒い毛皮をまとった生き物たちを簡単に「凶兆」とラベリングしてくれるなよ。

誰が何と言おうと私たちにとってあなたたちは吉兆さ。

 

■船出

「くろしお」という名前の中型の客船で、好きな男の子が生まれた町に向かおうとしている。出航は、日が昇るよりもはるかに早い朝。まだ、夜の冷たい気配と神聖な朝日の気配の二つが同居していて、うっすら見える月がきれいだった。真っ黒な海がゆらゆら揺れているのにちっとも怖くない。水面に映った月の光がゆるやかに揺らいでいたからだろう。海なのに潮の香りがしなくて、河のようなせせらぎが聞こえる。

「くろしお」というのもいい名前だな。「くろ」という言葉は黒糖のようにまろやかで甘く、それでいてほどよい重みがある。

客船の中は狭くて暗い。昔乗った「いしかり」という客船の二段ベッドの船室をさらに暗くしたような場所。だけど、ベッドのそばに窓があって外が見える。誰か、同年代の女の人がそばにいて、その人の方に顔を向けずに好き勝手に話しかけていた気がする。お世辞にも素敵な場所とはいいがたいのに、久しぶりの一人旅だ、と私はわくわく胸を躍らせている。

 

好きな男の子の生まれた街につく前に目が覚めてしまう。あの後どうなったんだろう。そもそもコロナウィルスの蔓延のせいで数年近く一人旅どころか誰かと旅行にすら言っていない。調べてみると「くろしお」という客船はどうやら現実にはなく、調査船とか潜水艦といったたぐいのものに着けられることの多い名前だった。