29歳になった夜に月食があった
頭痛をどうにかしようと放り込んだ鎮痛剤をうまく呑み込めず、のど元に滞留する違和感と溶け出してくるえぐみ・苦味に涙目になりながらえづいていた
好きな男の子が、熱心に自分の手をハンカチで拭いながらそっとそばにたたずみ、今日は月食だ、という話をしてくれた
どうやら彼は一人で月食の様子を見に屋外に出ていたらしかった
冗談交じりに、私たちのことも誘ってくれたらよかったのに、というと、好きな男の子を先頭に数人でぞろぞろと屋外に月を見に行くことになった
生憎外は曇りで、月を見ることができなかった
今日は思ったより暖かいね、というと、そうですね、と、いつもより、優しそうな声で返事をしてくれた
月が見れなくて残念だな、なんてちっとも思ってないことを口に出しながらまた、屋内に戻った
仕事から帰るとき、欠けた月がきちんと雲から顔をのぞかせていた
29歳の誕生日に、好きな男の子と月食を見ようとしたって、なかなか素敵じゃないかなと思った
のど元の苦さは頭痛と一緒に気づくと消えていた
ハッピーバースデイ、自分!