ここから一番遠い海

夢日記,昔話

うすぼんやりした夏

「変わりたいのに変われない」ような、積極的に手に入れたわけではない単調な日がずっと続いていく時期というのが2回ほどいままであった。不安とも焦りとも鬱とも少し違う、うすぼんやりとした灰色の感覚を抱えて生きてる、煮え切らない時期。その時期のことを思い出そうとするとなぜか思い出はすべてフィルム写真のような低い彩度、灰色がかっている。日当たりの悪い木造のアパートの窓辺のような明るさ。

そうだ、あの時私は日当たりの悪い木造のアパートの一回に住んでいた。そのアパートで過ごした3度の夏、セミの声と近くの高校に通学する女子学生たちの弾んだ声がいつも窓の外に聞こえた。彼女たちが暑い太陽のもとにいる一方、小さな部屋で日を浴びることが叶わない私には家賃4万円のカビが生えやすいアパートの壁以上の大きな隔たりがあるように思えた。規則正しく通学して部活をして講習を受けて、という彼女たちと、大学の時間割も果たすべき仕事も通うべき場所もない時分。時間とか空間の網目に落っこちてしまったような気分だった。

この世には今も必死で頑張っている人がいるのに今私は何をしているんだろうな、というようなことを思っていた気がする。20代の前半で気持ちも体も力が有り余っているはずなのにどこに、何にそれを向けていいかもわからない。そういう日々がいつ終わったのか、はっきりとした境目は思い出せないけど、3度目の夏を終え、秋が来て、冬にはすべてが変わっていたような気がする。

あのうすぼんやりとした灰が買って見える暑い暑い夏。あの夏に戻りたいような気もする。