ここから一番遠い海

夢日記,昔話

スタンプラリー

付き合っている人と実家のある北海道に遊びに行くことにした。
電話越しに、父親がはっと固まるような雰囲気を感じた気がした一瞬ののち、北海道のどこを通ってくるんだ、とか、車で来るのか、父親がと矢継ぎ早に聞いてきたりする。「いや別にそんな真剣な感じじゃなくてちょっとあってほしいくらいで」とかゴニョゴニョ返事をする。

 

成人してからか成人する前かよくわからないけど、いつからか私は父親のことを「大人」とか「庇護者」として期待してみないようになった。

父親は導火線が異様に短かった。完璧を求めまい、この人も人間なのだ、と何か小生意気なような諦観した心構えで父親と付き合うという選択は、海を隔てた距離に住んでることも相まってなかなかいろいろちょうどよかった。何より自分が父親に優しくいられる。季節の折に果物屋ら地酒やら海産物なんかを贈ったりということも気恥ずかしさなくできるようになった。

 

しかし、電話越しにはっとした父親の雰囲気やら、心なしか嬉しそうな声のトーンやらから、なんだかんだ言っても、私はかわいがられているんだな、と思わされるのだった。私はいくつになってもこの人の子供なんだな、と少し心がほどけるような気持ちになる。

 

今までの恋人を父親にあわせたことはない。母親には、一度だけ付き合っていた人を引きあわせたが、その後ほどなくしてその男とは別れてしまったし、それは母親が私の住む町に旅行がてらやってきたのがきっかけだった。今回とはちょっとわけが違う。私はただ、地元から遠く離れた函館の町でラッキーピエロのチャイニーズチキンバーガーを久しぶりに食べたかっただけなのですが、恋人のわくわくした表情や母親の期待交じりのLineなんかに返事をしていくうちにあれよあれよという間に、恋人を実家に連れて行くという旅程が仕上がっていた。

 

みんなこういうことをひょいひょいと超えて恋人同士という関係を深めたり結婚したりパートナーであると誓い合ったりしているのかと思うと一瞬気が遠くなった。なんだかスタンプラリーをしている気分になる。次はここにこれを、その次にこれを押して…となぞるべきルートをなぞり、果たすべき押印を果たしていくのだろうか。その途上に私はいるんだろうか。