ここから一番遠い海

夢日記,昔話

さようなら恋人

あとちょっとで3年記念日というとこで恋人と別れた.
28歳の春のことである.
「実はね…」,と言って一部始終話し終えたると,
ついにゴールインって話かと思ったのにと友達に言われた.

適齢期ともいえる30手前で付き合いの長い恋人と別れるって無謀だよな.
状況を考えれば,毎日打ちのめされて泣きはらしていてもおかしくなさそうだけど,元恋人に薄情なくらいにスッキリしている.

もう十分頑張ったので悔いがない.
別れは私から切り出した.
本当にもう十分頑張った.

彼のことを好きになって,彼のような人間になりたくなった.
私はその時弱くて自分の無力さにいつもお腹が痛くてうまく眠れなかった.
そんな中で私の心配事を豪快に笑い流す彼がすごくまぶしかった.
みんなで飲みに行っていたのに,思い出すのは居酒屋のオレンジ色の光と彼の二ッと歯を出して笑った顔だけだ.
彼に夢中だった.
夜眠る前に自分の悩みを笑い飛ばしてくれたことを思い出すと不思議と心が温かくなって少しだけ寝つきが良かった.

あこがれとか信仰にも似た気持ちで,少しでも彼に近づこうと
一生懸命理由を作ってメッセージや電話をつないだ.

ご飯や映画に行く約束を取り付けて,
私の気持ちを察した彼が流されるように付き合おうか,と言ってくれた時すごくうれしかった.
自分の人生がぱっと良い方向に切り替わったような気分だった.

でも別れてしまった.

一緒にいる間もずっとよい恋人であろうと一生懸命頑張っていたので悔いはないです.
変な話だけど自分をほめてあげたいくらいだ.

20代の最初に失恋した私は憔悴しきっていた.
体から無理やり一部を引きはがされたみたいにつらくて悲しいのに
人生が普通に続いていることがしんどくてぼろぼろになっていた.
映画みたいに悲しいBGMが流れたりなんてせずいつものように朝が来る.

20代の終盤に失恋した私はその当時から考えられないくらいタフだ.
自分のためにスコーンを焼き,好きな展示を見に美術館に足を運び,自分のためだけに花を買う.

彼はすごく憔悴しているみたいだった.
不思議なものだな.あんなに弱かった私が.あんなに強かった彼が.

彼が幸せに過ごせていますように.

おやすみなさい.