水木しげるの「のんのんばあとオレ」のあとがきで、戦争のさなか、もげてしまった片腕から土の香りがしたというようなことが書いてあった気がする。土人という言葉が悪口なのはおかしいということを述べていた箇所だった気がする。土の香りがするってとっても素晴らしいことでそれを悪口として通用させている社会の方をいぶかしんでいるような文章だった気がする。
「のんのんばあとオレ」の中の文章には、詩的でロマンティックな比喩表現があんまりなくて、だからこそ「もげた片腕から土の香りがした」というのが比喩でも詩でもないのがわかって頭を打たれたような気がした。
春が少しずつ近づいていることが体で、肌でわかるような空気の中、夕焼けと夜のはざまの空の下で土のにおいがして、そんなことを思い出した。記憶は定かじゃないけど、水木しげるは、腕がもげて高熱がでて、そのもうろうとした意識の中。自分の体から土の香りが立ち上っているのに気づいて「生きていける気がすると感じた」と言っていた気がする。
体がもげてしまうような出来事が当たり前ではないけど、それでもいろいろなことがままならなくて、人が木日々傷ついている世の中で、土の香りをかぐとふと、大きな時の流れを思い出して生きていける気がする。生き抜いていこう。