好きな男の子と思い出の中の黒い犬の存在が、私の中で重なっているとに気づいた。
どうして今まで気づかなかったんだろう。
私が一人ぽつんといた肌寒い早朝の静けさの中、そっと膝に頭を乗せて甘えてきた黒い犬。いつもはキリリとして、人に甘えることなんてなさそうな姿勢の良い立ち姿でスタスタと歩いているのに。
そういう風に、二人きりの時だけ急にりりしさをひそめて優しくて甘えん坊な姿に戻る黒い子犬と、本当は人懐こいのにあんまり人に懐こうとしない天邪鬼な好きな男の子の感じを思いだす。私が一人でいる時そばにそっとやってきてちょっと嬉しそうに不器用に話しかけてくれる、好きな男の子。
ああ、そっか、君らは仲間だったのか。
フリースに鼻先が触れるたび、私は思い出の中の黒い犬を思い出して幸せな気分になる。昨日夜寝る前、フリースに鼻先を近づけたりなんかしてないのに、好きな男の子のことと黒い犬のことが思い出されて、信じられないくらい幸せな気分になって眠りについた。好きな男の子の黒いきれいな瞳とか、めんどうくさそうに分けている前髪だとかが、ふわふわした毛並みの黒い犬に重なる。愛おしい存在達。
夜中、何かの物音で目が覚める。
家のすぐそばを若者がスケートボードで滑走していったみたいだった。大きな車輪の音が通り中に響き渡る。
黒い犬も、この唐突に始まり、だんだんと近づいてくる轟音が苦手で、よく音の方向に向かって吠えていた。
ざわついた心を落ち着かせようとしていると、好きな男の子の前髪や綺麗な黒い瞳が思い出された。
やわらかな眠りの中に落ちていく。